「僕たちの日常は、やわらかいヒビのなかにある。」
大きな環状線を跨ぐ高架には、ナトリウムランプが等間隔に立っていて、
灯りの下を過ぎるその一瞬、眼前の景色はすべて橙色に染まる。
今の家の庭は三方を竹林に囲まれているせいで、
行き場を失った風の吹き溜まりになっていて、うかつに窓を開けようものなら、
風は舞い上がった笹の葉を連れ、嬉々として部屋を通り過ぎていく。
雨上がりのアスファルトから立ち上る埃っぽい匂いも、
遠くの線路で列車が枕木を踏んでいく音も、
そんなひとつひとつに、ひどく鈍くなってしまった。
言葉は増え、たくさんの未知はそれなりの既知になった。
それがなんであるかを把握するのは、そんなに難しいことではなくなった。
いや、
それは必要なことだけを上手に処理するようになっただけかもしれない。
処理する必要のないものは、見ないことができるようになったのかもしれない。
価値と方法を考えるための知識ばかりが肥えつづけている。
色がCとYとMとKになったように、
「モノ」は一つ一つ要素に分解されて、名前を付けられて、
見知った要素の集合体としての「モノ」として、溢れるようになった。
気になっている。
処理することのできなかったものは、依然としてそこに存在している。
そして、見ないふりをしている。
そうやって「生きている」、ことにしている。
「生きる」ことを描きます、と宣言することがどうも恥ずかしかったのですが、
まあ恥ずかしがっていてもしょうがないので、
これは一回宣言してみよう、と思ったわけです。
「生きる」ことの価値でも意味でも方法でもなく、
そのものについての物語にしてみようと思います。
脚本・演出 北川大輔
甘粕阿紗子
金沢啓太
遠藤友香理
小島明之
板倉チヒロ(クロムモリブデン)
今城文恵(浮世企画)
奥田ワレタ(クロムモリブデン)
笠井里美(ひょっとこ乱舞)
齋藤陽介
中川慎太郎
中島美紀(ポかリン記憶舎)
永島敬三
松下仁(ひょっとこ乱舞)
森田祐吏(北京蝶々)
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